削除申請を出したのに却下された。
弁護士に相談したら「これは削除できない内容です」と言われた。
逆SEO業者に依頼したが数か月経っても状況が変わらない
風評被害の削除に動き出した担当者が最初にぶつかるのは、方法の問題ではなく「そもそも削除できる投稿かどうか」という判断の問題です。
事実と異なる内容が書かれていても、削除が認められないケースは思いのほか多くあります。
逆に、一見「大したことない投稿」でも削除が認められる条件を満たしているケースもあります。
本記事では、削除申請が通る投稿・通らない投稿の判断基準から始め、媒体ごとの具体的な削除手順、法的手続きの全体像、そして削除できない場合の現実的な次の一手まで、実務担当者がすぐに使える情報として整理します。
削除の「可否」を決める3つの判断軸
風評被害の削除対応で最初にすべきことは、削除方法を探すことではありません。「目の前の投稿が削除できる性質のものかどうか」を正確に判断することです。この判断を誤ると、削除できない投稿に費用と時間を費やし続けることになります。削除の可否は主に以下の3つの軸で判断されます。
判断軸1:投稿の「性質」——虚偽か、誇張か、主観か
削除が認められやすい順に整理すると、次のようになります。
| 投稿の性質 | 削除の可能性 | 理由 |
|---|---|---|
| 完全な虚偽・事実無根のデマ | 高い | 名誉毀損・信用毀損の要件を満たしやすい |
| 事実を誇張・曲解した表現 | 中程度 | 法的要件を満たすかどうかは内容次第 |
| 一定の事実を含む批判 | 低い | 「公共の利益」と判断される場合がある |
| 純粋な主観・感想の表現 | 極めて低い | 表現の自由として保護される範囲 |
最も難しいのが「事実を含む批判」と「誇張された主観」が混在する投稿です。「〇〇社の対応は最悪だった」「絶対に関わってはいけない会社」という表現は、一見強烈でも純粋な主観評価として扱われることが多く、法的な削除要件を満たさないケースがあります。
判断軸2:「対象の特定性」——誰に向けられた投稿かが明確か
名誉毀損として削除が認められるためには、投稿の対象(企業・個人)が特定できることが必要です。「最近の営業マンはだらしない」という漠然とした表現は特定性がないと判断されます。一方、「〇〇株式会社の▲▲という担当者は顧客を騙す」のように、伏字であっても一般人が読めば対象が判断できる場合は特定性ありと見なされます。
判断軸3:「実害の立証可能性」——損害を客観的に示せるか
削除申請や法的手続きで重要な要件が「実害の有無」です。投稿の内容が不快であったり、事実と異なっていたりしても、具体的な売上減少・顧客離れ・採用への影響などを示せるかどうかが、削除の成否に影響します。この実害立証のためにも、日頃からの数値管理と投稿発見直後の証拠保全が重要になります。
この3つの判断軸を事前に確認してから削除申請の方法を選ぶことが、無駄な手続きと費用を省く最短ルートです。
媒体別の削除申請手順と成功のポイント
削除できる可能性があると判断できたら、次は媒体ごとに最適な申請方法を選びます。プラットフォームによって申請の窓口・必要な情報・審査基準がまったく異なるため、媒体を正確に特定してから動くことが重要です。
GoogleマップクチコミとGoogleビジネスプロフィールの削除
Googleマップのクチコミは、事業者の集客に直接影響する媒体として特に重要です。削除申請はGoogleビジネスプロフィールの管理画面から行えます。
申請の手順は以下のとおりです。
- Googleビジネスプロフィールの管理画面にログインし、削除を求めたいクチコミを特定する
- 対象のクチコミ右側にある「︙(その他)」→「クチコミを報告」を選択する
- 違反カテゴリー(スパム・偽コンテンツ・誹謗中傷等)を選択して送信する
- Googleからの審査結果を確認する(通常数日〜2週間程度)
Googleが削除対象とする主なクチコミの特徴
- スパムや偽コンテンツと判断されるもの(同一者からの大量投稿等)
- 特定の個人への脅迫・ハラスメントを含むもの
- 競合他社が意図的に投稿したと判断できるもの
- 個人情報(住所・電話番号等)を不正に掲載しているもの
一方で、「サービスが悪かった」「料金が高すぎる」という純粋な不満投稿は削除されないケースが多く、Googleは「ユーザーの正直な評価」として保護する傾向があります。申請が却下された場合は、以降で説明する法的手続きに切り替えることを検討してください。
SNS(X・Instagram・Facebook)の投稿削除
各SNSには利用規約違反を報告するための専用フォームがあります。申請が認められやすい条件は、各プラットフォームの利用規約に定める「禁止行為」に明確に該当する場合です。
- X(旧Twitter):スパム・ヘイトスピーチ・なりすまし・個人情報の無断掲載等が削除対象の中心
- Instagram:ハラスメント・なりすまし・偽情報・危険なコンテンツ等が主な削除対象
- Facebook:コミュニティ規定違反(ヘイトスピーチ・暴力・偽情報等)が対象
各SNSの申請フォームは「報告する」から直接送信できます。ただし匿名アカウントからの誹謗中傷は、プラットフォーム側が「規約違反」と判断しない限り削除されないケースがあります。単なる批判的な意見は削除対象外となる場合が多いため、どの規約条項に違反するかを具体的に記述して申請することが受理率を高めます。
掲示板・まとめサイト・転職口コミサイトへの削除申請
5ch(旧2ちゃんねる)・爆サイ等の掲示板や転職口コミサイト(OpenWork・転職会議等)は、削除申請の窓口・審査基準がGoogle・SNSと大きく異なります。
掲示板系は各サービスの削除依頼フォームから、「どのルールに違反しているか」「対象が特定された名誉毀損に当たるか」を具体的に記述して申請します。掲示板運営者が任意削除に応じない場合、次の手段として「送信防止措置依頼」があります。これはプロバイダ責任制限法に基づく手続きで、サイトの運営者またはプロバイダに対し、権利侵害情報の送信を停止するよう依頼するものです。
転職口コミサイトについては、事実に基づく社員の声は一般的に削除されにくく、明らかな虚偽情報・特定個人への名誉毀損・機密情報の漏洩等が削除対象となります。申請と並行して公式な企業情報やポジティブな情報を充実させることが、実質的な影響を抑える有効な手段です。
削除申請が却下された場合の法的手続きの全体像
プラットフォームへの申請が通らない場合、または悪質性が高く早急な対応が必要な場合は、法的手続きに移行します。法的手続きには複数の種類があり、目的によって使い分けます。
法的手続き1:内容証明郵便による削除要請
弁護士を通じて、問題の投稿に関する削除要請を記した内容証明郵便を、サイト運営者または投稿者(特定できている場合)に送付する方法です。費用は弁護士費用として5万〜15万円程度が目安で、法的拘束力はないものの、内容証明の受領によってプラットフォーム側が対応を検討するケースがあります。
法的手続き2:仮処分申立てによる削除命令
裁判所に対して「投稿の削除を命じる仮処分」を申し立てる手続きです。仮処分が認められると、プラットフォームに対して削除命令が出されます。通常の訴訟より短期間(1〜2か月程度)で結論が出ることが多く、緊急性の高いケースに向いています。費用の目安は着手金10万〜30万円程度です。
仮処分が認められるための主な要件
- 申立人(企業・個人)が特定されていること
- 投稿内容が名誉毀損・プライバシー侵害等に該当すること
- 被害が実際に発生しているか、発生が明らかに予測されること
- 「単なる感想」や「公益目的」と判断されないこと
法的手続き3:発信者情報開示請求による投稿者の特定
匿名の投稿者を特定し、損害賠償請求や刑事告訴を行うための手続きです。なお2025年4月から施行された「情報流通プラットフォーム対処法」により、大規模なプラットフォーム事業者には削除対応の迅速化が義務付けられており、以前と比較して開示・削除手続きが通りやすい環境になっています。
手続きの大まかな流れ
- 対象サイトに対してIPアドレス等の情報開示を求める仮処分を申し立てる
- 仮処分が認められたら開示された情報でプロバイダを特定する
- 特定したプロバイダに対して契約者情報の開示を求める発信者情報開示請求訴訟を起こす
- 勝訴により発信者の氏名・住所が開示され、損害賠償請求や刑事告訴が可能になる
この手続きは完了まで数か月〜1年以上かかることもあり、費用は着手金と実費を合わせて20万〜50万円以上になるケースがあります。悪質な誹謗中傷や意図的な業務妨害に対しては最も実効性の高い手段ですが、費用と時間のかかる手続きであることを念頭に置いて判断することが重要です。
削除できない投稿に対する「現実的な次の一手」
法的手続きを経ても削除できないケースや、費用対効果の観点から法的手続きが適切でないケースでは、削除ではなく「情報環境の再設計」という発想に切り替えることが現実的です。
具体的には以下の手法が有効です。
- 逆SEO対策:ネガティブサイトを検索結果の下位に押し下げ、ポジティブコンテンツを上位表示させる(月額5万〜30万円程度)
- ポジティブクチコミの積み上げ:既存顧客・取引先への口コミ投稿依頼によって、ネガティブ投稿の相対的な影響を薄める
- サジェスト・関連キーワード対策:ネガティブワードの押し下げと、ポジティブワードの表示強化
削除できないと分かった時点で放置するのではなく、「見える状況を改善する」という発想の転換が、実質的な被害の縮小につながります。
削除対応で「絶対にやってはいけない」行動
削除対応の過程で、担当者が取りがちな誤った行動が状況を悪化させることがあります。以下の行動は必ず避けてください。
- 投稿者への直接連絡:「圧力をかけられた」として新たな炎上の火種になるリスクがある
- 削除済みと思い込んで証拠保全を怠ること:後から法的手続きを取ろうとしても証拠がない状態になる
- 感情的な反論投稿:削除したい投稿に対して公式アカウントで強い言葉で反論することは炎上加速につながる
- 削除を業者に丸投げして進捗を確認しないこと:対策内容が不透明になり、グレーな手法が使われるリスクがある
- 削除申請の結果を確認せずに繰り返し申請すること:一度却下された内容で繰り返し申請しても受理される可能性は上がらない
削除対応を始める前に「今日すぐできる」証拠保全の手順
どの削除手段を選ぶにしても、すべての手続きの前提となるのが証拠保全です。投稿が削除される前・拡散が進む前に、以下を必ず実施してください。
- シークレットモードで問題の投稿ページを開き、全体が見える状態でスクリーンショットを保存する
- ブラウザのURLをコピーし、投稿日時・投稿者アカウント名とセットでテキストファイルに記録する
- 投稿が複数ある場合はすべてを網羅的に保存し、発見した日時もあわせて記録する
- 保存したデータをクラウドストレージ・外部ハードディスク等に二重でバックアップする
- 社内の対応責任者に情報を共有し、以後の外部発信を一本化する
この証拠保全は、プラットフォームへの申請・弁護士への相談・法的手続きのいずれにおいても最初に提示を求められる最重要情報です。投稿が自然に削除されてしまった後では取り返しがつかないため、発見した直後が唯一の保全タイミングと心得てください。
まとめ
風評被害における削除対応の最大の落とし穴は、「削除されたら終わり」という認識です。削除できたとしても、その情報を見た人々の記憶にネガティブな印象が残っている限り、ブランドへの影響は続きます。削除はあくまで被害拡大を止めるための最初のアクションであり、その後にポジティブ情報の積み上げ・再発防止体制の整備・継続的なモニタリングを組み合わせて初めて、風評被害への本当の意味での対処が完結します。
今日できる最初の一歩は、問題の投稿の証拠保全と、シークレットモードでの現状確認です。その情報を持って弁護士や専門業者に相談することで、最も現実的かつ費用対効果の高い選択肢を提示してもらえる可能性が格段に上がります。
